唇によろこびはあるか

ほんとすごい盛り上がりですよね、バレンタイン。


ついに「俺チョコ」なる言葉まで導入して、もう、なんかよくわからないお祭り騒ぎになってきた感もありますが・・・。

まあ、ショコラ好きとしては、普段お目にかかることのできないショコラティエのショコラが手に入ることはとてもうれしいので、それはそれでいいのですが、ブームになると冷めるときも早いので、少し怖い気も。


まあそういう話はおいといて、私とショコラの出会いの話を。

少しショコラには特別な思いがありまして。



確か15年前くらいだったかな、仕事で丸の内界隈をふらふらしていた時期がありました。

その時にあるとても洗練されたブティックに目を奪われました。


それが「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」でした。


その頃は、まだベルギーチョコ全盛の頃でフランス式のボンボンショコラやガナッシュはあまり話題にもならなかったころだったと思います。

ブティック形式のショコラショップもとても珍しかったと思います。


その高級な雰囲気に気後れしながらもどうしても気になったのでふらっと入ると、宝石を扱うかのように美しく整然とショコラが並べられています。


そして試食をさせていただいたのですが、あまりのおいしさにびっくり。

ボンボンショコラのその複雑で繊細なとても洗練された深い味わいに驚きました。


今でこそオーガニックだなんだとよいカカオを食べる機会は普通にあると思いますし、バレンタインで一流のショコラティエのショコラが並んだりと、素晴らしいショコラを口にする機会はあると思いますが、ちゃんとしたカカオというのはこんなにも深い味わいがあり、そのカカオをまるでフランス料理のように様々な技術を駆使してその一粒にすべてを込めていくそのボンボンショコラという世界を初めて知り、一気に魅せられました。


しばらくは本当によく通いました。


そして5年ほど前の話です。

色々あってしばらく生活もあまりよくない時期でショコラ熱も冷めていたころです。


そんな時、大阪の阪急百貨店のイベントで、「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のクリエイティブディレクターであるジル・マーシャル氏が来日して実演をしてくれるということを聞き、ふと思い立って足を運びました。


定番のガナッシュの実演なのですが、カカオを湯煎するところから詳しく解説しながらガナッシュづくりを披露してくれました。

そして試食まで。

出来立ての「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のガナッシュをいただけることはそうないでしょう。


そのジルマーシャル氏の手仕事は素晴らしいものでした。


カカオの攪拌のしかた、バニラビーンズやフルーツによる香りづけなど、その手さばきはまさに一流の職人の美しさがあります。


いつも思うのですが、一流の職人という方の手仕事を目の前で見るということはとても素晴らしい体験だと思います。


やはり、料理もそうですし服飾もそうでしょう。

同じものを作っていても、素晴らしいプロダクトを作る人の手仕事というのはよどみがないというか、熟練した人にしかない動きの美しさというものがあります。


もちろん、その出来立てのガナッシュは食べたことないほどの素晴らしい美味しさでした。


一番前で食い入るように見ていた私は目立ったのでしょうか、イベント終了時にショコラを買ってサインをもらったのですが、そのあとに「あまりに真剣に見ていらっしゃったので少し緊張しました(笑)」とお声掛けいただいて、少しお話をさせていただくことができ、少しですがショコラのことも教えていただいたりと貴重な時間になりました。


ある意味人生に嫌気がさしていた時期でしたが、この体験は「あ、このままじゃだめだ」となにか生き方を見直すきっかけにもなったような気がします。

大げさではなく。


それくらい、やはり職人的世界というか、何か愛情をこめて一つのものをつくる、というのはとてもなにか大事なものがあるというか・・・

それは、その完成されたプロダクトもそうですが、その制作の過程にまで表現されるものなのでしょう。


うまく言えませんが、そういうものに触れることで、私は救われてきたんだと思います。



そうそう、それと同じような話なのですが、


世の中の工芸品やそのような手作業のものがどんどん流通しなくなってきて、日用品なんかは100均でほとんどそろうような時代です。

そのうち、器なんかももうちゃんとした焼きものなんかは、ほんとに希少な民芸品みたいになっちゃうのかな?と少し寂しい気分になっていて、かといって、確かに安い機械製品もだんだんおしゃれでしっかりしたものになってきて、それの何が悪いの?といわれたら返す言葉もないよね、と思っていた時期がありました。


そんな時、イギリスの陶芸家であるバーナード・リーチの陶芸展に行ったときに、紹介されていた言葉でこんな言葉がありました。


「唇によろこびはあるか」


彼が弟子にコーヒーカップの出来の良しあしを問われたときに言った言葉だそうですが、この言葉を見て、私はなんか悶々としていたものがぱっと晴れた気分でした。

これは芸術作品としてではなく、日常に使うコーヒーカップの制作の話です。


私は、別に陶芸をやっているわけでもないし、芸術家でもないのですが。



えーと、何が言いたいのか、まとまりをどうつけようか・・・ちょっとうまい文章が思い浮かびません。


そう、すばらしいショコラも口に入れた瞬間よろこびが広がるし、よくあつらえられた服は着た瞬間体が喜びに包まれるし、素晴らしいカップで飲むコーヒーはとても美味しい。


そういうことはやはりまた見直されるのだろうと、そう思うのです。



そしてぜんぜん次元は違っても、自分もそういう風に何か誠意をもって仕事に打ち込んだり、言葉や姿勢を正して人と接したり。


時代がどうあれ、周りがどうあれ、

あ、人生ってそれでいいんだなと、思うわけです。


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